書評：「facebook」〜世界最大のＳＮＳでビル・ゲイツに迫る男〜ヘン・メスリック（夏目大　訳）：最前線研究者のひとりごと：SSブログ

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ロイター電が報じた米ヤフーの研究「Web..｜Facebookは日本で成功するのか？ブログトップ

書評：「facebook」〜世界最大のＳＮＳでビル・ゲイツに迫る男〜ヘン・メスリック（夏目大　訳） [編集]

　この本は今、世界的にシェアを確保つつあるFacebookが始まった頃の話をまとめたものである。FacebookはどんなＳＮＳなのか、その性格、mixiなどとの違いなども、その成り立ちを知ることで理解できるだろう。
　
　Facebookは当時ハーバード大学の学生だったマーク・ザッカーバーグが立ち上げたサイトであるが、この本を読めば、天才プログラマーが作ったサイトがそれ故に大ヒットしたという単純な図式ではないことがわかってくる。マーク・ザッカーバーグは確かに天才プログラマーであるし、Facebookが大きくなった今でも天才プログラマーであり続けている２６歳の青年だが、この本を読む限りは、本来なら主人公であるはずのマーク・ザッカーバーグに好感を抱く人は、恐らく１人もいないのではないか。
　
　マーク・ザッカーバーグは、同じハーバード大学のウィンクルボス兄弟の依頼で大学生対象のＳＮＳサイトの作成を引き受け、その時点で出来ていたサイトのソースコードまで入手しながら、同じアイディアのFacebookを別に立ち上げてしまった。それも、ウィンクルボス兄弟からの依頼を断る前に、である。そして、その創業時に資金的援助を受けた、同じハーバード大の学生のエドゥアルド・サヴェリンをFacebookを本格的に稼働させる時点で切り捨てた。元々３０％の比率での株主であったにもかかわらず、である。さらに、エドゥアルド・サヴェリンと入れ替わる形で資金的援助を工面したショーン・パーカー（Napstarの創業者）も後に切り捨てる。
　
　エドゥアルド・サヴェリンについては、ビル・ゲイツと共にマイクロソフトを創業したポール・アレンや、スティーブ・ジョブズと共にアップルを創業したスティーブ・ヴォズニアックを思い起こすが、ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズも共に共同創業者に訴訟は起こされていない。ケンカ別れという面もあるかもしれないが、表面的にはそうではない。しかし、マーク・ザッカーバーグとエドゥアルド・サヴェリンの場合は両者の訴訟合戦に発展しているのである。マーク・ザッカーバーグについてはこの本以外にもいろいろと書かれると思うので、描かれ方は本ごとに違うかもしれないが、しかし、お互いがお互いを訴えたことは事実である。
　しかも、マーク・ザッカーバーグについては、それ以外も本格的な稼働期を共に歩んだショーン・パーカーも切り捨てている。つまり、創業時からずっと歩み続けている同志という存在が、いない。いないのである。
　
　歴史を振り返って、創業時からの同志、仲間を次々に切り捨てていき、結果として孤立していった者と言うと、秦帝国に最初に挑戦して「張楚」を建国した陳勝、三国志の呂布、南北朝期の後醍醐天皇、戦国時代の松永秀久、幕末期の清河八郎、徳川慶喜、そしてナポレオン・ボナパルトを思い出す。逆に秦末動乱の劉邦や項羽、三国志の曹操や劉備は創業時の仲間は大切にしているのである。
　
　そう考えると、人と人とを繋ぐネットワークを作り上げた張本人が、人との繋がりを持てない人、という皮肉な状況になっていることがわかる。そんな人が作り上げたのがFacebookであるので、人間関係の機微に通じたサイトの設計にはなっていないし、あまりにもアメリカ的なＳＮＳとも言える。しかし、Facebook自体についての論評は、また稿をあらためて行うことにする。
　
　Facebookの創業者マーク・ザッカーバーグについては、この本を基に「ソーシャルネットワーク」という題名で映画化もされたし、この１月には以下のような本も出版された。私もこの本はまだネットで注文したばかりで実物を手にしていないが、両者を比較して読むと、より深くFacebookというＳＮＳ，そしてマーク・ザッカーバーグという１人の天才の実像に迫れるのだろう。
　
　『フェイスブック若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)』　日経ＢＰ社
　　デビッド・カークパトリック (著), 小林弘人解説 (その他), 滑川海彦 (翻訳), 高橋信夫 (翻訳)